複合的な伝熱方式を活用した非接触高速温度提示装置MoHeat

東京大学 先端科学技術研究センター 身体情報学分野 稲見・門内研究室
許 佳禕(XU JIAYI)
採択技術名 | 複合的な伝熱方式を活用した非接触高速温度提示装置MoHeat |
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採択者名 | 東京大学 先端科学技術研究センター 身体情報学分野 稲見・門内研究室 |
採択年 | 2025年 |
※掲載している情報は、受賞当時の情報のため、現在は異なる場合があります。
詳細
本技術は、温度という新たな感覚チャネルを非接触かつ高速に制御することで、人とコンテンツ、あるいは人と人とのインタラクションに臨場感や親密性をもたらす、次世代の感覚インタフェースである。放射による加熱に加え、冷却には対流による手法を用途に応じて活用することで、加熱と冷却をスムーズかつ柔軟に切り替えることが可能である。これにより、状況に応じた自然でダイナミックな温冷感覚を違和感なく提示できる点が、大きな特長となっている。
このような特徴を活かし、本技術は、特にVRコンテンツやキャラクターとの対話演出において高い親和性を持ち、没入感や身体的リアリティを拡張する手段として有効である。たとえば、VRゲーム中に火や氷の演出があった際、それに合わせて温度が変化することで、視覚情報だけでは得られない身体的な臨場感が得られる。また、アバターが耳元で囁くようなシーンでは、繊細な温度刺激を通じて、キャラクターの存在感や感情がよりリアルに伝わる。他にも、ライブ演出や展示体験、教育・医療分野への応用も期待される。
さらに、本技術は、音響や映像と連動させることで感覚の重層化が可能となり、既存メディア体験の質をさらに高める「感覚拡張ツール」としても活用できる。今後は、本プログラムを通じて、本技術の価値を多様なステークホルダーと共に検証し、社会実装や国際展開への足がかりとしていきたいと考えている。
社会実装
について
本技術は、温度という感覚を非接触かつ柔軟に制御可能とすることで、視覚や聴覚に加えて触覚的な没入感・身体性・情緒的伝達を加える新しいインタフェースとして機能する。特に、「感情の伝達」「キャラクターとの関係構築」「物語性の強化」といった感性的・内面的な体験価値の向上に貢献できる点が特長である。
社会実装の観点からは、まずエンターテインメント領域における実用化が見込まれる。たとえば、VRゲームやアニメーション、ライブ演出において、温度感覚を活用した演出により、視聴者やプレイヤーの身体的な没入感や臨場感の強化が期待される。また、バーチャルキャラクターとの対話シーンでは、空間的・身体的な感覚演出を加えることで、親密さや感情表現の深みが増す可能性がある。
さらに、本技術はウェルビーイングやメンタルケア分野への応用可能性も秘めており、リラックス誘導や情緒的な快適性の向上といった領域においても、感覚と感情の接続を媒介するやさしいインタフェースとして機能しうる。
今後は、展示・実証実験・共創ワークショップなどを通じて、コンテンツ業界・医療・福祉・教育など多様なステークホルダーと連携しながら、本技術の社会的な意義と応用可能性を検証していく予定である。特に本プログラムを通じて、海外の体験設計やアート、ウェルビーイングの潮流とも接続し、日本発の感性インタフェース技術としての国際的な展開を目指していきたい。
審査講評

VRにおける温度提示といえば、じわっと熱くなったり冷たくなったりするだけ、そんな時代は過去のもとなり、高い応答性をもち、VR世界の様々なアクションに瞬時に応答できる温度インタフェースが実現しつつある。本技術 MoHeat は、ヘッドセット型の装置の中に、熱と冷気を両方組み込み、高速な温度提示を実現する。灼熱のバトルフィールドから氷山のブリザード、常夏の楽園や冬山でのスキー、VR世界での様々な体験をさらにリアルにしてくれる可能性に期待したい。
(南澤 孝太 委員/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)教授)